「…うーん」

男が一人、似合わないお店の前で唸っている。

男の名前は折原浩平。

「どうしよう…」





デーモンロード
前編




その店は色で表すなら桃色。

女の子向けのファンシーなグッズを専門に取り扱うお店である。

本来ならば絶対行かないような店だが、入らなければいけない状況に陥っている。

なぜ、そんな状況になっているかというと…。







「うむ」

鏡を見て頷く。

髪型バッチリ、服装もいつもより少しおしゃれにしてみた。

あとは遅れずに集合場所に行くだけだ。

ポケットに入れてあった携帯電話を取り出し時間を確認する。

「よし、まだ余裕だな」



ジリリリリ、ジリリリリ

「おっと」

ちょうどその時、電話の音がなる。

ジリリリという音がするからといって据え置きの電話からではなくて、いま手に持っている携帯電話からだ。

いろんな着信メロディーはあるがこれが一番シックリきたのでこれにしている。

携帯電話の画面をみると、今日会う予定の人の名前が出ている。

ピッ

「もしもし?」

「…もしもし…浩平ですか?」

「ああ、どうした?」

「いや、ちょっと風邪をひいてしまったようで…ゴホゴホ」

「おいおい、大丈夫か?」

「それがどうもあまり大丈夫じゃなさそうなのです…」

「熱は?」

「さっき計ったら38度ありました…」

「そりゃ、ヤバめだな」

「そういうわけで今日は…」

「ああ、それは仕方ない。デートなんかいつでも出来るんだし、今日はゆっくり休んでおけって」

「…ありがとうございます」

「しかし、せっかくの誕生日なのに災難だなぁ」



そう、今日は茜の誕生日。

プレゼント選びの買い物を兼ねたデートをする予定だったのだが、茜が風邪を引いてしまったようだ。

しかし、プレゼントは当日渡したいところ。



「よし、じゃあお見舞いもかねてプレゼント買って茜の家行くわ」

「マズイ…」

「ん、何か言ったか?」

「いえ、何も…」

「そうか」

「…浩平…気持ちは物凄く嬉しいのですが…。まさか、浩平のセンスでプレゼントを選ぶつもりですか?」

「それはそうだが?」

「…それだけは勘弁してください」

「むう」



なぜ、茜が俺のセンスで選んだプレゼントを嫌がるのか。

それは去年のプレゼントのせいだろう。

俺的にはとてもナイスなセンスだと思った『良くわからない外国人のマッチョな人の柄のTシャツ』が茜にはとても不評だったのだ。

ちなみにその人の横にはこんな文字が打ってあった。

『すごいよジョニー! 筋肉が燃えるようだ!』

いいじゃないか!!

どこがいけなかったのか俺にはサッパリだ。



「プレゼントは風邪が治ったら一緒に見て回りましょう」

「ダメだ! 誕生日にやるから誕生日プレゼントなんだ。俺は今日渡す!」

「…そんな変なところで律儀にならなくても…」

「今日以外はもうプレゼント買わないぞ」

「はぁ…仕方ないですね。それではお願いします」

「よし、任せろ」

「…ただし」

「ん?」

「店を指定するのでそこで買ってきて下さい」







で、その指定のお店がここである。

休みの日だけあって中は女子中学生や高校生で賑わっている。

「変なところで律儀になんかならなきゃ良かった…」

いまさらながらの後悔。

しかし、見れば見るほど入りづらい…。

さて、どうしたもんか。



「折原く〜ん!」

ドゲシッ!!

「ぐをっ!!」

突然、突き飛ばされてコケたので顔は確認できていないが、一発で誰だかわかった。

「何しやがる、詩子っ!」

気配を感じさせず人に近づき、明るい声で平然と人の事を突き飛ばしてくるのは、この柚木詩子ぐらいだ。

詩子からしたら、これが挨拶らしいが他のヤツにやってるの見たことないし…。

絶対嫌がらせである。

「これぐらいでコケるなんて足腰弱いなぁ」

「フイを突かれたところに全体重をかけたタックルが来ればそりゃあ転ぶわ!! ったく…」

俺は立ち上がり砂を払う。

高いってわけではないが、一応俺の一張羅だぞ、これ。

「で、何うんうん唸ってたの?」

「実はカクカクシカジカで…」

「ふむ、カクカクジカジカか〜」

「……」

「……」

「わかったのか?」

「全然」

そりゃあカクカクジカジカでわかったらエスパーだな。



「まあ大方、茜の誕生日なんだけど茜が風邪ひいたからデート中止になって、プレゼントだけでもお見舞いで持って行こうって話しになったけど、折原くんのセンスが悪いから茜から買う店を指定されたのはいいが、とってもファンシーなお店で入りづらく、店の前で唸っていた、ってところだろうけど…」

いたよ、エスパー!!

詳細まで完璧!?

何もんだ、こいつ…。

「ま、まあ、そんなところだ」

あまり驚くと詩子が喜びそうなので、ここはクールに受け答えておいた。

「ふむ、茜も酷な事するねぇ」

「たぶん、この店なら俺が変なもの買ってこないと思ったんだろう」

「ああ、そういや去年アレだったしねぇ。アレはどうかと思うけど…」

「むう…」

「あ、そだ」

「ん?」

「お店入りづらいんでしょ? 一緒に入ってあげよっか」

「ふむ、確かに女子と一緒なら少しは入りやすい」

「そうでしょ。しかも、あたしは茜の好みは熟知してるよ〜」

「そういやそうだな」

「今日のお昼で手をうってあげよう」

昼ごはんを要求してきた。 いつもなら軽くあしらうのだが、変なもの買っていって茜の機嫌を損ねるとフォローが結構大変だったりする。

「ぐぅ…あまり高いものじゃなかったらOKだ」

「やったぁ。じゃあ入ろうっか」



ウィーン

手を引かれ店の中に入る。

茜とも滅多に手は繋がないので少しドキッとしてしまったのは内緒だ。

とりあえず店を見回して見当をつけ…。

「うはっ!」

中のほうがさらにファンシーだった。

軽く目がチカチカする。

「ふ〜む、茜が欲しがりそうなものか。とりあえず…こっちから行ってみよう〜」

手をひかれてアクセサーリのコーナーに行く。

「ほう」

こういうお店にあるアクセサリーはオモチャみたいなものだけかと思っていたけど、この店にはから本格的なアクセサリーも置いていた。

数百円の物からそれこそ数万円の物まで。

「しかし茜はあんまりアクセサリー付けないよな」

「そうだね〜。でも、茜ならシンプルな感じのイヤリングとか似合いそうじゃない?」

「う〜ん、結構いいかも」

「でしょ」

茜は普段、ヒラヒラな服結構着たりするので、イヤリングなどを付けていてもおかしくない。

「そういや詩子はピアスとかやってないのか?」

横に一個300円のピアスがバスケットに入れられ売られていたので、ふと聞いてみた。

「少しは興味あったけどね。ウチの学校そういうの格段に厳しくって。わざわざ、その目を掻い潜ってまで付けたくはないなぁ、と」

「ほう。もしかして意外とお嬢様学校だったりするのか?」

「一応、そんな感じだね」

「へぇ〜」



続いてぬいぐるみコーナー。

「これなんか良くないか?」

「…折原くんそれ一体どこから?」

「ワゴンセールの中を漁ってたら出てきた」

「この店によくそんなのあったねぇ」

そんなのとは、マッチョの黒人が妙なポージングを決めているものだった。

タグを見ると『ボブ人形〜Heart Beat Version〜』と書いてあった。

ボブって誰だ?

そして別のバージョンが存在するのか?

いろいろと謎なぬいぐるみである。

「とにかくそれは却下。ぬいぐるみなら〜…あ、これはいいかも」

「ん、どれだ?」

詩子が手に取っていたのは変なナマズのような魚のぬいぐるみ。

「何の魚だ、それ?」

「肺魚だよ〜」

「なんじゃそれ」

「知らないの? 魚なのに肺で呼吸するヤツだよ〜」

「でもそれ色とか地味じゃないか?」

「わかってないなぁ。これはレアなレピドシレン・パラドクサ版だから茜も欲しがると思うけど」

「…う〜む」

女の好みはわからんなぁ。



洋服コーナーにて。

「じゃ〜ん!! どう?」

「さっきよりはそっちの方が良いと思う」

「やっぱそう思う?」

「でもそれだったら2回目ぐらいに着た水色のやつの方がいいんじゃないか?」

「ああ、アレもよかったね」

かれこれ10着は着替えただろうか。

詩子が今年の夏用にキャミソールが欲しいというので付き合っているわけだが。

なんか本来の目的を外れてる気がする…。

「ええと、アレどこにあったっけ?」

「ん、水色のか? その列の右端ぐらいにあったと思う」

「えーと…あった!」

「それにするのか?」

「うん♪」

詩子お嬢様はご満悦のようだ。



で、肝心の茜へのプレゼントはというと…。

「あたしを信じなさいって、茜喜ぶから」

結局、詩子のオススメの肺魚のぬいぐるみになった。







「そろそろお昼だし、食事行こっか」

「俺は茜の様子を見に行きたいのだが…」

「え〜。さっき奢ってくれるっていったじゃ〜ん。大丈夫だって。茜、風邪ひきやすいけどこじらした事ないから」

「そうはいってもなぁ」

「まあまあ。ご飯終わったら行きましょ」

「確かにお腹は空いてるが」

「でしょ。ここから近いところといえば…この通り少し行ったところにあるパスタ屋でも行きますか」

「OK」

「では、レッツゴー」

今度は腕を深く絡めてくる。

「お、おい」

「ゴ〜ゴ〜」

う〜む、こんな所誰かに見られてたらマズイよなぁ。





後編へ続く




[後書き(っぽい物)]


g「はい。里村茜&柚木詩子、誕生日おめでとうSS『デーモンロード』の前編をお送りしました」

あゆ「茜さんの誕生日は4月21日、詩子さんは5月7日だよね」

g「うむ。二人の誕生日が近いので、二人の誕生日SS書いて、前編を茜の誕生日、後編を詩子の誕生日に公開しようと思ったわけだ」

あゆ「という事は後編は5月7日公開ってわけだね」

g「予定ではね」

あゆ「いつもながら後ろめたい回答…」

g「まあそんなわけで後半どういった展開になるのか」

あゆ・g「お楽しみに〜」



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