「あ〜、ここかぁ」

何度か通ったことのある場所だったので、外観だけは記憶にあった。

確か1年前ぐらいにできたお店で、少し洒落た佇まいだ。

「おっ、ラッキー。待ってる人いないようだね」

「いつも混んでるのか?」

「休日のお昼時はいつも混んでるんだけどね。それなりに人気だし」

「ふむ、まあとりあえず入るか」

「うん」



「あれ、折原?」

店を入ろうと歩き出した瞬間後ろから声をかけられる。

この聞きなれた声は…。

「げっ。やっぱり、ななぴー」

「『げっ』って何よ。『げっ』って。あと、ななぴー言うな。…って、あれ?」

「ども〜」

「柚木さんじゃない」

いつも詩子がクラスに乱入してくるので、二人は顔見知りだ。

「また、三人でお出かけ? 相変わらず仲いいわね。あれ、里村さんは?」

「あ〜、今日はワケあって二人なんだ」

そんな言い方したら七瀬が勘違いしそうな予感がするのだが…。



「へぇ〜、ワケありかぁー……はっ!?」

七瀬の乙女回路がここまでの会話の流れから状況を判断する。

折原の見つかって欲しくなった感じの様子。

折原の恋人でもある里村さんの姿は無い。

二人仲良く手を繋いでいる。

そして、ワケあり。



はじき出された回答は…。

「ふ、ふたまっ!? た…あーあー、えーと、あたし何も見てないから。うん何も見てない。今日、折原なんていう言う人とも会ってない」

「お、おい七瀬。勘違いしてないか?」

「え、なに? アナタ誰ですか? 日本語良くワカリマセーン。それじゃあ、アディオース、日本のヒト!!」

ダダダダダ

「お〜い!! って、行っちゃった…」

物凄いスピードで駆けていってしまった。

予想通りの勘違いをしたまま…。

「行っちゃったねぇ」

「手なんか繋いでるから、余計に勘違いされたじゃないか」

「まあ、いいじゃん」

「いいじゃんって、お前なぁ」

「それよりご飯いこ〜」

「はぁ…。へいへい」



いろいろと前途多難である。





デーモンロード
後編




「ご注文はお決まりですかー?」

活発そうなウエイトレスさんが注文を聞きにきた。

おそらく、オレたちとそんなに変わらない歳だろう。

「あたし、あさりのスパ〜」

「オレは…豚肉と春野菜のクリームスパゲッティで」

「かしこまりましたー、ごゆっくりどうぞ〜」



「外食、久しぶりだな」

「そうなの?」

「まあな」

「おばさんと住んでるんだっけ?」

「うむ。ほとんど顔合わさないが」

「そうなんだ」

「ほとんど家に居ないしな。でもまあ食事は作っておいてくれるし、外食するのは茜と出かけた時ぐらいだ」

「ふ〜ん。あたしは友達とかと結構行くけどね」

「茜以外に友達いたのか」

「あ〜、何それ」

「だってお前、ウチの学校に頻繁に来るからさ。向こうに友達いないからこっちに来てるもんだと」

「友達なら数え切れないぐらいいるよ」

「ホントか?」

「ホントだって」

「まあいいや。それよりまだ来ないかなぁ、よく考えたら朝から何も食べてなかったから結構ペコペコだ」

「あはは。まあ、運良く座れたとはいってもほぼ満席だしね。ちょっと時間かかるかも」

「ふむ」



「あ、これしてみない?」

詩子が指差したのはテーブル横にある液晶画面。

タッチパネルになっており、指一本で操作できる。

今上映している映画の予告ムービーを見たり、簡単なゲームが出来るようになっていて、ご飯が来るまでに退屈させないようにという心遣いから設置してあるらしい。

「へぇ。最近のお店は凄いな」

「有料のもあるけど、そこまでして見たいとは思わないね」

「まあな。何か無料ので面白そうなのあるか?」

「これなんかどう? ありきたりだけど」

詩子がタッチしたのは今日の運勢というもの。

「占いか」

星座ごとに今日の運勢が出てくるというもっともポピュラーなものだ。

「折原君、星座何?」

「おひつじ座だ」

「おひつじね、ピッと」



『おひつじ座の人の今日の運勢…中吉』

「おっ、なかなか良いじゃん」

『困ったときに助けが来るかも』
『厄介ごとに巻き込まれそう』
『友人に注意』

「…中吉なのに悪い事の割合のほうが多くないか?」

「あははは。さすが折原君、面白いねぇ」

「ラッキーアイテムはファンシーグッズだってさ」

「ちょうど良かったじゃん」

「このぬいぐるみか? …ファンシー?」

茜のプレゼント用に買った肺魚に目をやる。

「ファンシ〜」

「どうも納得いかんが…。次、詩子やってみろよ」

「おっけ〜。あたしはおうし座でーす。ピッっと」

「お前、おうし座だったのか?」

「うん」

「じゃあ誕生日近いんじゃ?」

「5月7日だよ」

「へぇ。もうすぐじゃん」



『今日のおうし座の人の運勢…小吉』

「え〜、大吉じゃないの〜」

「はっはっは、勝ったな」

『待っていては大事な人に奪われる危険があり』
『自分から積極的に仕掛けていくといいことがあるかも』
『親友に注意』

「ふむ。なんとも言い難い感じだな」

「そうかな。結構、面白い結果かもよ」

「そうか?」

「そうそう」



それからすぐに食事が来て、食べ始めた。

「おっ、ウマイ」

パスタは予想よりも美味しかった。

「でしょ。パスタはここがこの町で一番だと、あたしは思ってるよ」

「へぇ」

春野菜のシャキシャキ感がパスタと意外にあう。

そして、豚肉も柔らかくて食べやすい。

「シェフはまだ若いらしいけどね〜。っと、半分食べたら交換しない? あたし、それ食べたことないの」

「そうなのか?」

「だってそれ春限定だもん。それ出てからこの店来たことなかったし」

そういえばメニューに季節限定の文字が書いてあったような気がする。

「お前も頼めばよかったじゃないか」

「いや〜、いつもの勢いで」

「いつも、それなのか?」

「大体はね」

「ふ〜ん。じゃあ、チェンジっと」

サッと皿を入れ替える。

「あ〜、ズルイ!! まだ私半分以上残ってるよ〜」

「まあまあ。お嬢様にはそのぐらいで丁度よろしいのではなくて…っと、こっちもあっさりしてて美味いな」

あさりもふっくらとしており、絶品だ。

「う〜…」

唸りながらもクリームスパゲッティに手を伸ばす詩子。

「あ、これも美味しいねぇ」

「だろ」



なんだかんだで食べ終えて、会計を済ます。

「ごちそうさま〜」

「…ったく。これで、このぬいぐるみ喜ばれなかったら今度奢って貰うからな」

「大丈夫、大丈夫っ♪」

「ほんとかよ。じゃあまあ、茜ん家行くか」

「おー」



二人並んで茜の家を目標にし、歩き始める。

ここからだと歩いて15分ほどだろうか。

「詩子」

「ん?」

「お前の誕生日5月7日だったっけ?」

「そうだよ」

「じゃあその日にパーティーやらないか?」

「パーティーねぇ。そんな盛大に祝ってくれなくてもいいんだけど…」

「いやまあ、お前の分はもちろんだが、今日、茜を十分に祝ってやれなかった分も含めて、二人の合同誕生日会のような形でさ」

「へぇ〜、それはいいかも。さっすが折原君、一生に3回は良いこと言うね」

「なんだそれ。それじゃあ、オレはあと2回しか良いこと言わないっていうのか?」

「あはは。そうなるねぇ」

「ありえないな。オレはいつでも良いこと言うっての」

「ハイハイ」

「ぐっ…。っと、ここ曲がれば茜の家か」

話し込んでる内に茜の家の傍まで来ていたようだ。



「…折原君」

なぜか立ち止まる詩子。

それに合わせオレも立ち止まり、詩子の方を向く。

「ん?」

「誕生日プレゼントの事なんだけど…」

「むっ、そんなに高いものはムリだぞ」

「…今、貰っても良い?」

「今? 今っていってもオレ何も持ってな  



一瞬、オレはなぜ喋り終わることが出来なかったのかわからなかった。



春風は目の前の少女の香りを運んでくる。



オレの唇を包み込むのはその少女の唇。





詩子が離れた後もオレは固まったままだった。

何をされたかは理解できていても、なぜそういうことをされたのかは理解できていなかった。

「えへへ〜。じゃあ、あたしはこれで帰るね。今日は楽しかったよ。また今度〜」

そういって足早に去っていく詩子にオレは何も声を掛けることが出来ずに立ちすくんでいた。





ちょうどその同時刻ぐらい、薬をのんで眠っていた茜が目を覚ます。

熱は下がったようで、体が少しラクになったのがわかる。

そしてふと、時計に目をやる。

「…一時か。…浩平遅いですね」



里村茜。

4月21日生まれ。

そして、星座はおうし座である。







デーモンロード 終




[後書き(っぽい物)]


g「はい、というわけではい。里村茜&柚木詩子、誕生日おめでとうSS『デーモンロード』の後編をお届けしました」

あゆ「すんごい展開で終わるんだね。それに今までのSSとは毛色が違う感じ」

g「ふむ。まあ今までギャグとかばっかりだったしな」

あゆ「この最後の茜さんの誕生日とかはなんでわざわざ書いてるの?」

g「ああ、おうし座ってのがポイントなんだな。誰かさんと同じ」

あゆ「あ〜、あの占いと繋がるのか」

g「うむ」

あゆ「あと前回も疑問だったんだけど設定はどうなってるの?」

g「それは、アレだ。浩平たちが3年の春なんだが浩平が永遠の世界からちょっと早く帰ってきちゃったというちょっとムチャな設定」

あゆ「ふ〜ん。あ、そうださっきみたら手紙が来てたよ」

g「マジ!? ファンレター!?」

あゆ「イニシャルA.Sさんから『ジェミニ泣かす』」

g「Σ(゚Д゚;)」

あゆ「あ〜、たぶんあの人だね。今回メインだったはずなのに扱いが悪かった」

g「ゴメンナサイ。今度はちゃんとアナタが目立ったSS書きますから……たぶん…気が向いたら」

あゆ「ダメだこりゃ」

g「まあ、そんなワケで、次のSSの後書きで」

g・あゆ「「お会いしましょー」」



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