冬の休日



ここ数日雨の日が続いた。

今日の朝は止んでいたのだが、先程からまた降り始めたようだ。

冬の雨は冷たく地面に刺さって行く。



「あ〜、やっぱり降ってきたか」

浩平は、せっかくの日曜なので商店街にでも行こうとしたが、雨が降りそうなので少し様子を見ていた。

行かなくて正解だったと、自分の予知能力に感謝する。

実の所をいうと、予知というか、ただ単に元から今にも降りそうな雲行きだっただけだが……。



いつもはおちゃらけた性格の浩平も、さすがに休みの日にこの天気だとテンションが上がらない。

「まあ、漫画でも読むか」

先日、彼のクラスメイトである住井の部屋より借りてきた……というか、半分強奪してきた漫画を手に取りベッドに寝転がる。

漫画を読んでいる間も雨は降り続き、その音をBGMに読み進める。

こんな中、お涙頂戴ものお話のでも読んだら感動ひとしおなのだが、残念ながらこの漫画はこれでもかというぐらいのバカげた内容のものだった。

「ふぅ、なかなか面白かったな〜。これを借りていくとき住井が『それまだ読んでないだ。誰が貸すかっ!!』とか言って、貸ししぶったのもわかる」



ぼぎゅりゅ〜い

「……腹減った」

人間とは思えない腹の音がする。

時間は12時過ぎ。

浩平の叔母である由起子は今日も朝から出かけているが、いつものパターンからすると、ご飯は作ってくれているはずである。

読み終えた漫画を片付け、キッチンへと向かう。



「うお、さむっ!?」

暖房の効いた部屋から出ると、浩平は予想以上の寒さに少し身を強張らせた。

素足ではフローリングの床は冷たい。

早足で廊下と階段を駆け抜けた浩平は、リビングのドアを開ける。



「このカレー美味しいね、雪ちゃん」

「そうね。……って、またこぼしてる!」

ふきふき

「ありがとー」

ズザーーー!!

コケた。

おそらく、彼の人生の中でこれほど漫画のようにコケた事はないだろうと思われる。



「何か、浩平君のような人が、漫画のように激しくコケた音がしたよ、雪ちゃん」

「あー、まあ当たり〜」

「当たり〜、じゃない!! ここで何してるんだっ!?」



一人きりだと思っていた家の中で、食いしん坊の先輩とそのお付きがカレーを食っていたらそれはズッコケるのも仕方のない事。

「あ、浩平君。こんにちは」

「こんにちは。おじゃましてるわ」

「ああ、こんにちは。……じゃなくて。なんでここにいるんだ?」

「なんでって……ん〜……?」

「えっと……あれ?」

すぐにでも答えられそうな質問を投げかけただけだが、二人は1回目の考慮時間に入ってしまったようだ。



「そういや、なんでかしら」

昔はしっかり者だったはずの深山雪見がボケた事を言い出す。

「ちょっと待って。順を追って思い出すから」

雪見は額に手を軽くあて、渋い顔で、みさきは、カレーを食べるのを一瞬止め、人差し指をピンと一本立てて可愛く首をかしげながら、今日の出来事を思い出し始める。

「えーっと、今日は朝から雪ちゃんと商店街お買い物に出かけてて……」

「そうそう。で、お昼も近くなってきたし何か食べようって話をしてたら雨が降ってきたのよ。まあ、二人とも傘を持ってきていたから問題はなかったんだけど」

「それで二人で傘を傘を差しながら、ご飯の話の続きをしていたら」

「みさきが、『いい匂いがする〜』とか言い出して」

「「それを辿って(それに付いて)行ったら」」

「「気付けばいまの状況に」」



「気付けばって……」

あまりにもバカバカしい理由だった。

とりあえず、浩平はツッコめる所を全部ツッコんでみることに。

「商店街から家ってどんな嗅覚してるんだ! 商店街なら他にもお店とかいっぱいあるのに、なんで家なんだ! 匂いにつられたからって人の家に勝手に入るな、そして食べるな! なんで最後綺麗にハモったんだ!」

「「それは二人の仲がいいから(だ)よ」」

「……」

最後のツッコミにしか反応をくれなかった事に激しく疲れを感じる浩平。

みさきと雪見は同じ大学に行っている。

そこで一体何があったかは知らないが最近はこんな感じでベタベタである。

「はぁ……。とりあえずオレもご飯食べよう……って少ねぇ!!」

鍋に残っていたカレーは一杯分あるか無いかの量だった。



「……あの二人(主に一人)どれだけ食べたんだ? まあ、ご飯さえあればなんとか……って三粒!?」

「浩平君用に残しておいたんだよ」

屈託の無い笑顔で、明らかな嘘っぱちを言い放つ食欲魔人。

そんな言葉は軽く流しつつ、浩平は食物を探して冷蔵庫を開ける。



「あのー、つかぬ事をお伺いしますが」

「どうかしたかね、折原君」

「昨日まであったはずのスモークチーズががないのですが」

「ああ、それはわたしが食べた」

「なぜ食べる!?」

「いや、ほら。私はカレー1杯で十分だったし、何かデザート的なものを探してたらあったもので」

知人の中で数えるぐらいしかいなかった常識人だった雪見が遠くへ行ってしまって、少し寂しい浩平であった。

だが実は、浩平自身が一番常識人として見られていない事に彼は気付いていない。



それから数分、浩平と雪見がギャーギャー言い合う中、みさきが何かを食べているという光景が続く。

「昔の常識人だった深山さんを返せっ!」

「あなたに非常識とか言われたくはないわ」

「なんだとう〜」



「…………音が」

「ん?」

食事の手を止めたみさきがぼそりと呟く。

「雨の音が止んだよ、雪ちゃん、浩平君」

窓の外を見ると先ほどまで降っていた雨は止んでいた。

その代わりに……。

「雪が……」

「雪……」

「雪なの?」

「雪だ」

「なんか久しぶりねぇ」

「去年は雨ばかりで降らなかったしな」



この地域で二年ぶりの雪が雨で塗れた地上へと落ち始めていた。

今は雨に塗れた地面にとけていくかもしれないが、時間が経てばそれは降り積もっていく。



「積もったらみんなで雪を食べようよ、シロップかけて」

「……」

「……」



あんたまだ食う気かよ。

そう激しくツッコみたかった二人だが、そんな気持ちは何故か降り始めた雪に吸収されていった。








[後書き(っぽい物)]


g「リハビリがてらの短編いかがだったでしょう?」

あゆ「本当に久々だねぇ。1年以上書いてなかったんだっけ?」

g「うむ」

あゆ「まあ、相変わらずシュールな終わり方だね」

g「そこが売りっていうか、なんとなく普通に終わらせるのが好きじゃないだけ」

あゆ「文章力は相変わらずだけどね」

g「むしろ前より落ちてる可能性大。かなり書いてなかったので、これだけの量書くのでも本当に苦労しました」

あゆ「これからはまた書き始めるの?」

g「これからもっと忙しくなるだろうから、しばらくは難しいかも」

あゆ「そうなんだ」

g「それでも時間が空いたらガンガン書くつもりではいるので、たまーにで良いので覗いて見て下さい。日記はそこそこ更新してるので、生存確認はそちらでよろしくお願いします」

あゆ「じゃあ、そんなこんなで」

g・あゆ「また会う日まで〜」



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