ここは…昔よく遊んだ原っぱ。



目の前には良く一緒に遊んだ女の子。



名前は…なんでだろう、思い出せない。



そういえば彼女となぜ遊ばなくなったのだろうか。



思い出してみる。



思い出せない。



なぜ…なぜ……。







ガバァッ!!

「ハァ、ハァ、ハァ」

夢を見ていた。

見たくは無い夢だった。

どんな夢か覚えてはいないのだが、この嫌な汗が物語っている。



「ふぅ」

呼吸を落ち着かせる。

時計を見ると7時少し前。

いつもよりかなり早い。

せっかく早起きしたのだから、ゆっくりご飯でも食べるかな。

そう思い立ち上がろうとする。

「痛っ!」

なぜだか腰がイタイ。

思い出してみよう。

昨日は帰りに軽くランニングして帰ったな。

それぐらいではこの腰の痛みにはならないだろう。

それから最後に調子に乗ってきたからバク転……。

「謎は全て解けた!」

バク転の着地の時、腰が変な音を立てていたような気がする。

教訓、人間慣れない事はするな、と。



「まあ、いつまでも痛がってもいられないな……って、あれ?」

オレの机の上に見慣れない物体発見。

どうやら目覚まし時計のよう『朝〜、朝だよ〜。でも…

バンッ!!

「うお! いきなり女の声が大音量で流れたので止めてしまった」

しかし…。

「『でも』の続きが気になる!」

そう、とっても気になる。

この業界(どの?)のデフォルトでは『朝ご飯食べて学校行くよ〜』のはずだ。

このままでは今日の試合に集中しきれないかもしれない。

とりあえず踊ってみよう。

シェイクシェイクッ♪







「…はっ!?」

落ち着け、オレ。

踊っても何の解決にもならないではないか。

無駄な踊りに二分間も時間費やしている場合ではない。

このメッセージの続きをなんとかして聞かなければ。



そうだ!

時間を戻してまた鳴る時間に持っていけば聞けるではないか。

どうしてこんな簡単な事に気がつかなかったのだろう。(踊ってたから

後ろのつまみで時間を戻しタイマーが鳴る時間まで戻す。

「よし!」

「……」

「………」

「…………」

「鳴らねぇ!!」

なんでだ!

逆にタイマー時間の方をいじってみるが一向になる気配なし。



「…ん?」

今気付いたが机の上に紙が置いてあった。

「取説(取扱説明書)か!」

と、思ったが激しく違っていた。

どうやら置手紙のようだ。

字からしてあかりが残していったものだろう。

読んでみるか…。

『浩之ちゃんへ。今日は司会の打ち合わせのため、早めに学校に行かなければならないので起こしに行けません』

オレが起きる前に来てたのか。

ということはこの目覚まし時計もあかりのか。

『だから、友達からさわやかに起きれる目覚し時計を借りてきたので、それをセットしておきます。さわやかに目覚めてね』

友達のかい!

しかも全然さわやかに目覚められなかったぞ。

むしろメッセージ聞けなかったから、ストレスまでたまった。

『今日100%の力が出るように朝ご飯作っておいたので、ゆっくり味わって食べてね』

おっ、気が利くなぁ〜、流石はあかりだ!

『なお、その目覚まし時計は役目を終えると持ち主の元に自動的に帰ります』

んな馬鹿な!!

時計が勝手に、持ち主のもとに戻るわけが  

「って、あれ?」

さっきまであった目覚まし時計は忽然と姿を消していた。

「ふむ。不思議なこともあるもんだ」

まあ、あれだ。

昨日からいろんな事があったから慣れてきたぞ。

とりあえずご飯食べて体力付けとこう。



そういや、あかりのやつ何を作ってくれたんだろう。

階段を下りてリビングに入る。

テーブルの上を見ると、何やら丸い物体が一つだけポツリと置いてあった。

「まさか飯って…これ?」

そう、それはお湯を注いで数分でできるという、便利な食品  カップラーメンである。

正確に言うなら、カップラーメンではなくカップうどん。

その名は『ど○兵衛』それ以外の何物でもなかった。

「朝飯に『ど○兵衛』…。あかりお前ってやつは…」







「グッジョブ!!」

そう、何を隠そうこのオレは一ヶ月『ど○兵衛』でも大丈夫なほどの『ど○兵衛』好きである。

さすがあかり、わかってるねぇ。

しかも、オレの一番好きな『きつね』の特盛をチョイスしてるあたりは神業に近い。

ど○兵衛の容器を持ってみると、中の暖かさが微かに外に伝わってくる。

「って、ちょっと待ったー!!」

暖かいってことはすでにお湯を後ってことでは…。

そういえばさっきの置手紙に…。



『朝ご飯作っておいたので、ゆっくり味わって食べてね』



「…作っておいちゃマズいでしょ!」

実は、あかりが目覚ましをセットして家を出ていったのがオレが起きる直前で、まだお湯を注いでから5、6分ぐらいしか経っていなかった…などという期待を胸に秘めながら、恐る恐るふたをめくっていく。



「ぐっ!!」

5、6分しか経っていなかったなんて期待は風の前の塵の如く散っていった。

これはゆうに30分は過ぎているだろう。

元々オレは3分のところを1分40秒しか待たない微硬麺派だ。

しかし、もうこれは『硬い』、『柔らかい』の次元ではない。

スープをすべて吸ってしまっている上に、なまぬるくなっている…。

どう処分するか…。

でも、せっかくあかりが気を利かせて作ってくれた物だ。

「食う。オレは食うぞー!」

オレはその物体を胃の中に流しこむ。







「ゲプッ」

特盛なだけあってかなりのボリュームだった。

まあ、味はど○兵衛だったな。

そして、顔を洗い歯を磨く。

時計を見るとまだ少し余裕の時間だったが…。

「少し早いが、飯も食ったし学校に行くとすっか」

スポーツバッグにタオル水筒などを入れる。

「よし、準備OK。んじゃ、行くか!」



爽やかに家を出る。



その爽やかさといったら、朝練に向かうテニス部員並みの爽やかさだったとその姿を偶然目撃した近所のオバチャンが後に語っていたそうな。





喊烈武道大会

〜第一の凶〜






「ハァ、ハァ、フゥ、ハァ」

ウォーミングアップ代わりに軽くランニングして学校行こうと走ってたら、いつのまにかマジ走りになってた。

このペースだと家から学校までの最短記録更新するな。

「よし校門が見えた。ラストスパ  

どかっ!!

「……!」

「あうッ!」

前方不注意だったオレは、前を歩いていた見知らぬ女生徒に、勢いよくぶつかってしまった。

向こうは女のコだけに体重も軽く、ぶつかったというよりも、一方的にこっちが相手を突き飛ばした形になってしまった。

オレは微妙に体勢を崩すものの、難なくステップでもちこたえ、一方相手の女生徒はなんの抵抗もなく倒れ、地面に尻餅をつく。

…いやちょっと待てよ。

前にも2回ほどゲーム内で、同じ事があったような。(ゲーム内ってなんだ

この流れるような黒髪は…

「わ、わりぃっ、先輩! また突き飛ばしちまった。大丈夫?」

そう、オレが突き飛ばしたのは来栖川芹香先輩。

「……」

「えっ、大丈夫ですって? よかった〜、怪我でもしてたらどうしようかと思った」

しかしよく先輩とぶつかるよなぁ。

先輩って気配ほとんどしないからなぁ。

「とにかく…ホレ、掴まりなよ」

オレはそう言って、片手を差し伸べた。

先輩は一瞬ためらいながらも、差し伸べた手を握り返してくれた。

先輩の手って、すべすべしてるよな〜。

…はっ!?

いかんいかん、さっさと先輩を起こしてあげないとな。

「よいしょっと。ホント大丈夫?」

先輩はこくんとうなずいた。

「……」

「記録更新邪魔しちゃってごめんなさいって? いやそんなの全く気にしなくていいから」



二人で並び下駄箱までの道を歩く。

「そういや、先輩も予選に参加するんでしょ。自信は?」

正直先輩が参加するのは意外だった。

格闘技とは正反対の人だと思ってたんだけどなぁ。

しかも対戦相手はマルチとだ。

「……」

「準備はバッチリですって? ふ〜ん」

準備ねぇ。

何の準備だろう?

「でもマルチってメイドロボだし基本的に人には逆らえないんじゃないの?」

「……」

「格闘技となれば話は別。主人であろうと製作者であろうと敵であれば容赦なく倒すモードに切り替わるって?」

初めて聞いたぞ、そんなこと。

「……」

「マルチのデータ領域の93%は格闘技のデータで、機体も来栖川電工が総力を集めて開発した物なので象にふまれても大丈夫。1000度の熱にも耐えるって?」

頼むから料理とかのデータをもっと入れてやってくれ!

毎回焦げた料理食わされる身にもなって欲しいもんだ。

そこら辺メイドロボとして少し間違ってる気がするんだが…。

「じゃあ、先輩とはここでお別れだな。それじゃあ、また後で!」

下駄箱についたのでそこで先輩とは別れた。

「教室行きますか」



ガラガラガラ

「お?」

今日は参加者以外学校は休みになっているはずなのに、ほぼ全員来ている。

「おい、矢沢」

「チャ〜イナタウン〜♪ って違ーう。俺は矢島だ!」

「ナイスノリつっこみ」

「おそらく、ここしか出番がないからな。なるべく目立っとかないと」

「なかなか殊勝な心がけだ」

自分の立場が良くわかっているな。

「で、なんだ?」

「ああ、お前ら今日休みだろ。なんでこんなに人来てるんだ?」

「そりゃあ試合見に来たんだろうが」

「わざわざ?」

「わかってないなぁ。じゃあお前がタダでK−1やボクシングのタイトルマッチ見れたらどうする?」

「そりゃあ行くだろ」

「そういう事だ」

「そんなレベルの試合なのか?」

「それ以上になるだろうな」

「…マジか」

ピーンポーンパーンポーン、ピーンポーンパーンポーン

『これから、喊烈武道大会の選考試合を行います。出場する選手の方は、グランドに集まってください』

委員長の声が全校放送で流れる。

「ふむ、行くか」

「俺も後で応援行くわ」

「おう!」

「雅史のな!」

ガクッ!

「オレのじゃないのか」

「当然だ! 男子でお前の味方は居ないと思っておけ! 毎日違う女を連れて歩きやがって…ブツブツ…」

もてない男の戯言をこれ以上聞くのもアレだし、グランドに向かおう。



「あっ、先輩。おはようございます」

1階に降りたところで声をかけられる。

この元気な声は…。

「おはよう、葵ちゃん。いよいよだね」

いよいよとか言ってオレは知ったの昨日だけどな!

「はい。この日のために猛特訓をしてきましたからね」

「そんな練習しなくっても、葵ちゃんは十分強いと思うけどな。レミィは弓でも使わないと勝てないんじゃないか?」

冗談交じりで言ってみる。

葵ちゃんの相手はレミィである。

「ですよねぇ。あの弓は厄介ですねー」

「…え゛。まさか武器もアリ?」

「当然。なんでもアリですよ」

マジかい。

オレPK戦でよかった。

「さて、先輩そろそろ行かないと」

「おっと、そうだったな」



選手はグランドの中央に集められ、その周りをギャラリーが取り囲んでいる。

ギャラリーはパッと見ただけで1000人以上。

今の状況はあかりから大会諸注意なんかをダラダラと聞いている。

『以上、諸注意でした。最後に校長先生から激励のお言葉を…』

あかりがいつになくハキハキとした言葉遣いで喋る。

ふむ、司会もなかなか様になってるな。

「しかし校長の話か…」

やばいな…。

今だかつて校長の話は30分以内に終わった例がない。

暇潰しも思いつかないし…。

よし、寝よう!

「Zzzzz…」

「あ、浩之さんが寝てます〜」

「…違うぞマルチ…これはラーマヨガの秘術…たぬき寝入りだ…ぐぅ…」

「…だめだこりゃ」







ギャラリーの中にはもちろん偵察の人も少なくはない。

「はぁ〜。やっと着いたよ」

長森瑞佳。
選手決定戦で「8匹のネコ」「だよもん星からの使者」などの奥義を駆使するも里村茜の前に惜しくも敗れる。



「人がいっぱいなの」

上月澪。
スケッチブックを多用した技で善戦するものの七瀬留美の圧倒的なパワーには敵わなかった。



「みゅ〜」

椎名繭。
決定戦では川名みさきのオーラに動物的感で危険を察知し試合を放棄した。



「まったく折原もひどいよな。『お前ら未熟だから、会場まで行って生で偵察して来い』だなんてな」

南義明。
決定戦では折原浩平の姑息な技に翻弄され敗北。



「「「……」」」

「なに? なんで3人して不思議そうな顔でこっち見てるの」

「「「…誰?」」」

「ちょっと待った! 澪ちゃんと繭ちゃんはともかくとして長森さんとはクラスメイトだよ!」

「う〜ん。…あ! もしかして沢口君」

「あ〜、沢口さんなの」

「みゅ〜」

「沢口違う! 他の二人もそれで思い出すんかい!」

「だってチーム名にもなってるし」

「くうぅ。折原のやつ変なチーム名付けやがって」







その逆サイドの方のでは…

「耕一さん」

「ん、何? 楓ちゃん」

「これから何があるんですか?」

「格闘技の試合だよ。しかも、下手にお金払って見に行くより面白い試合が見れると思うよ」

「そうなんですか。…それにしても」

「ん?」

「姉さん達、怒ってるでしょうね。みんなに内緒で二人でデートだなんて」

「まあ見つかればタダではすまないだろうね」

「…ですね」

「まあ恐ろしいことを考えるのはよして今日を楽しもう。ほら初音ちゃんもこんなに楽しそう   って初音ちゃんなんでここに!!」

「お兄ちゃんに、お姉ちゃん」

天使のような笑顔だが、発するオーラが笑っていない。

「二人とも、なかなかいい度胸してんじゃねか」

「や、やっぱり反転してる!」

「特に耕一。お前は女たぶらかし過ぎだからな。半殺しではすまないぞ」

「ヒイィィイ。お、お助け〜〜〜」

ぴゅー!

「あっ、待ちやがれこの野郎!」

「あ、耕一さん、初音…」

「…行っちゃった」

「……」(間が持たない)

「…つ、次行ってみよー」







「ん…ふぁあ」

結構深く眠っていたようだ。

「ではワシからは以上である」

校長の話が終わったようだ。

ジャストタイミングである。

「んーゴホン。それでは最後に」

ん、校長何やる気だ?

「ワシが男塾じゅ「獅子閃光っ!!!」

ドガーン!!

校長は見事に吹き飛び校舎にめり込んでいる。

「危なかったわ」

よくわからんがナイス委員長。

「JA○RACとか五月蝿いからね」

否、あかり、JA○RACは関係ないと思うぞ

。 にしても今の技…。

恐ろしい破壊力だった。

なんで委員長は出場してないんだろう。

「…ふぅ。では男子のPK戦から始めます。会場へ移動しますので速やかに行動してください」

…って、オレと雅史の戦いからなのか!







歩くこと15分ほど。

目の前にドでかいスタジアムが現れた。

「いつの間にこんなの出来たんだ…」

PK戦ぐらい学校のグランドでも出来るのだが、観客が入りきらないという事で、スタジアムを借りきってやるらしい。

観客、グランドに来てただけじゃなかったのか…。

「選手はここから入って下さい。それぞれ控え室があるのでそこで準備してきて下さい。試合開始は今から30分後。それまでにアップとかも済ませておいて下さい」

係員らしき人物から指示を受ける。

雅史は先に入ったようだ。



控え室で準備を済ませる。

「早めにグランドに出てアップしといた方がいいか」

ただでさえブランクがあるからな。

少しボール触っとかないと。

コンコン

「ん?」

ドアがノックされる。

ガチャ

「元気〜?」

「お、綾香。うぃっす」

「うぃっす」

「ここは選手以外入れないのでは…って綾香も選手か」

「いや、ホントならその試合の出場選手以外は観客席で待機なんだけどね」

「ほう」

「ここウチが作ったスタジアムで、しかも格安で貸してるからね」

「なるほど、融通が利くわけか。で、何?」

「ああ、今日の試合のルールとかの本貰ってないでしょ」

「保科さんが浩之にだけ渡すの忘れてたらしくてさ。ルールだけでも伝えといてって保科さんに頼まれて来たわけよ」

「お、そりゃすまんね。でも、普通のPK戦とどこか違うのか?」

「まあ浩之達が良く知っている名前で言えば二人PKってやつね」

「なるほど二人PKか」



・二人PK(ふたりぴぃけぃ)
一対一で行われ、一人がキッカーとキーパーの両方をする以外は普通のPK戦。
中学高校などの部活でサッカー部が暇なときに良くやっている。
古代ヨーロッパで戦争の決着がつかないときに両軍より代表を一名ずつ出し、刺の付いたボールを交互に蹴って相手にぶつけ、先に倒れたほうが負けという決闘の方法があり、これが起源だといわれている。
明○書房刊『明日のためのスポーツ講座』より



「その本胡散臭っ!」

「ふっ、甘いな綾香。胡散臭いのではない、嘘なのだ」

「嘘なんかい!」

「まあルールのとこだけ合ってるけどな」

「まあいいわ。それより、そろそろウォーミングアップしとかないとマズイんじゃない?」

「だな。そいじゃ行ってくるわ」

「頑張ってね〜」

「おう!」







『ついにサイは投げられた! 喊烈武道大会本戦に出るメンバーを争うのは全部で10人。4人しか本戦には出れないというなか、厳しい戦いが繰り広げられると予想されます。こけら落としとなる試合は藤田浩之VS佐藤雅史のPK対決。はたして勝負のゆくえはいかに! 実況はこのわたくし、保科智子と』

『神岸あかりで』

『『お送りします』』

『今回は解説にカバディ元全日本代表、セルシオ越後屋さんにお越しいただきました』

『んあ〜、どうも』

『おお〜っと選手が入場して来た模様です!』



…委員長気合入りすぎ。

後、なんでカバディの人呼んでくるんだ…。

まあいいか。

にしてもこのスタジアムは広い。

綾香から聞いた話によれば、収容人員8万人。

サッカーだけでなく様々なスポーツに使えるように作られているらしい。

まあその会場がほぼ満員なんだから恐ろしいもんだ。

これだけの客の前でヘタな試合は出来ないな。

「やるからには手加減なしだぞ雅史」

「もちろん!」

雅史は現役なだけに負けるわけには行かないだろう。



「主審のコイントスで順番が決まります。セルシオさん、先行と後攻どちらが有利とかはあるんですかね?」

「んあ〜、サッカーのことは良くわからないね」

「そうですか、ありがとうございました」

その解説者帰ってもらえ!



まあ、先行が雅史、後攻がオレとなった。



「それでは佐藤選手の一本目!」

ピーッ!!

「行くぞ、浩之っ!!」

「来いっ!」

「うおぉぉおお、タイガーーショッ  



  プツン



フワン

「あれ? テレビが切れた」

折原浩平。
ONEチーム男性代表。
いらん事しぃ度では業界No.1との噂あり。
「南は沢口」という嫌がらせのようなチーム名をつけたのはもちろん彼である。



まったくこれから面白いところだってのに。

「だれかリモコン踏んだとか」

里村茜。
ONEチーム代表。
ワッフルとお下げと傘を駆使した多彩な技を得意とする。



「リモコンはテーブルの上だよ」

「ホントだ。って、先輩なんでわかるの?」

「気配だよ」

川名みさき。
ONEチーム代表。
盲目ながら様々な拳法を極めたと言われている。



「コンセントが抜けたとか」

七瀬留美。
その圧倒的パワーは他を寄せ付けないものがあるらしい。



「ふむ、その可能性はあるな。茜、ちょっと見てきてく  

「…嫌です」

否定早っ!

「場所的にお前が一番近いだろ」

「…面倒くさいので嫌です」

お前はお昼時のオバサンか。

「この前例のヌイグルミ買ってやった恩を忘れたわけではあるまいな」

「あれはプレゼントですから、恩を着せられるようなものではありません」

「しょうがない、じゃあ今度山葉堂のワッフルおご  

キラーン

茜の目が怪しく光ったのを俺は見逃さなかった。

こいつ、これが狙いだったな。

良く考えたらこれしきでワッフル奢るのもバカらしい。

「やっぱ止め。七瀬、見てきてくれ。これも乙女への道だ」

「マジで? それじゃあ見てくる」

…相変わらず乙女という単語に弱いやつめ。

「コンセント抜けてないわよ」

「そうか、じゃあ何でろう?」

「こういう時は叩けば直るとか言うよね」

それはいつの時代の話なんだ、先輩。

「じゃあ七瀬さんちょっと叩いてみて下さい」

「ダメダメ! 七瀬が叩いたら熊の如きパワーで一撃粉砕しちゃうって!」

「んなことするか〜っ!!」

ズッゴ〜ン!!

「って、あっ…」

「やっちゃったね」

「やっちゃいましたね…跡形もなく」

「折原これは違うのよ。つい弾みで…って折原いないじゃん! 何処行ったの?」

「現実逃避しに永遠の世界に行っちゃいました」

「どうしよう〜。またしばらく帰ってこないよ〜」

「しょうがない奴ね。テレビの一台や二台で」

「そんなことより試合の続きが気になるよ〜」

「そうですね」

「そういえば二階の折原の部屋にもTVあったはず」

「それじゃあ二階いって見よう〜」

ドタドタドタ

ガチャ

「ふむ、この男の部屋はなぜか綺麗よね」

「毎日違う女の子がとっかえ引き換え来てたら嫌でも片付くでしょう」

「まったくアイツは…」

「TV発見。スイッチオン〜」

プチ…ブワァン



『いや〜かなり見ごたえのある試合でした』

「げっ、もう終わっちゃってる」

「どっちが勝ったんだろう」

『それでは勝負を決めた五本目の佐藤選手のキックをリプレイで見てみたいと思います』

「あ、リプレイやるみたいですね」

『さあ、追い詰められました佐藤選手』

『ここまでのスコアは2-3。浩之ちゃ…藤田選手がリードしています』

『トトカルチョ(サッカーくじ)の人気では8:2で佐藤選手が人気だったんですがね〜。勝負の世界は何が起こるかわかりません』

『二人とも4本目までに必殺シュート打ちまくって体力をかなり消費しています』

『果たしてこのキックで勝負が決まるのか。佐藤選手が外せばその時点で藤田選手の勝利が決まります』



「ここまで追い詰められるとは思わなかったよ」

ブランクがあるといえ雅史にサッカーを教え込んだのはオレだ。

まだまだ負けるわけにはいかない。

その意地とも言える魂がオレを動かしていた。

「でも体力は現役の僕の方が上のはず。延長に持ち込めば僕の勝ちだ!」

「ふっ、果たしてそうかな」

と、強気な発言をしたものの、もうマトモなキックを出来る体力は残ってねえ。

雅史の言う通り、ここが勝負の分かれ目だろう。

さっきの雅史の4本目の必殺シュートの威力が相当弱っていたため、もう5本目に必殺シュートを打っては来れないだろう。

しかし、まだ普通のシュートが打てそうなぐらいの体力は残っているのは確かだ。

ここは純粋にコースを読むセービングで勝負だ。

ピー!!

「いくよ!!」

「こいっ!」

軸足は、まっすぐ向いている。

振り足の角度からしてインサイドで左隅を狙ってくると見た。

左だっ!

「何!?」

「甘いね」

蹴る寸前で振り足の角度を無理やり変え、右サイドにアウトサイドで外に逃げる回転のシュートに切り替えてきた。

「ちぃー!」

左に山を張っていたため体制が左に寄っている。

ダメか   







「最後まで…希望を捨てちゃいかん」

(こ、この声は  !)

「あきらめたら…」

(安○先生!)

師の声が脳をよぎる。

「あきらめたら、そこで試合終了だよ」

  そうだっ!! あきらめたらそこで試合終了だっ!!)



雅史のシュートは無理やりアウトサイドシュートに切り替えたため威力は無いに等しい。

こうなればイチかバチか。

「いけぇー!!」

「なっ!」

ヒュッ!

バス…トン、トントン……

『止めたぁーーー!! 藤田選手、なんとスパイクを飛ばしてシュートを防ぎました!!』







「さすが浩之。あのシュートが止められるとは思わなかったよ」

「まあアレはイチがバチかだったけどな」

「勝負強さも実力のうち。浩之は強かったよ」

「…雅史」

「…浩之」

ガシッ。

激戦を称え男二人、抱き合う。



トントン

「ん?」

誰かに肩を叩かれる。

「あ〜、やおいは嫌いじゃないんだけどね。そこどいてくれないと次の準備が出来ないのよ」

「やおいじゃねぇ!」

そういや、マルチなスポーツに対応したスタジアムが売りだったな。

どうやらここで次の格闘技の試合もやるようだ。

「アンタバイトか? 同い年ぐらいに見えるが」

というか制服着てるが。

「そう。今月ピンチだったから偵察ついでに…いやゲフンゲフン」

あからさまに怪しい。

偵察って言っちゃってるし。

「太田さん〜。これ運んで〜」

「はい〜。ってなわけだからどいたどいた」

「おっと、すまなかったな」

取り合えず控え室戻って着替えるか。

「行くか」

「うん」



「…浩之」

「ん?」

「あの制服はたしか雫チームの学校のだよ」

「そうなのか」

「他にも偵察が来てるかもね」

なんか凄い事になってきてるなぁ。

「そういやオレ等どこで試合みるんだ?」

「あ、選手は最前列に特別席が用意されてるからそこで見るらしいよ」

「お、いいねぇ」

「そいじゃ着替えたらそこで」

「おう!」







『それでは女子の部第一試合、来栖川綾香VS長岡志保の戦いを始めます』

「やべっ。もう始まりそうだ」

スタジアムは真ん中にドラゴ○ボールの天下一武道会のようなリングが設置され、その周りまで観客席が拡張されている。

その最前列に選手用の席は用意されていた。

『解説に第二試合を戦う姫川琴音さんをお迎えしています』

『どうもです』

『おっと選手が入場してきたようです』

「手加減はしないわよ」

「結構よ。そんな余裕はすぐに無くなるだろうけどね」

志保のヤツえらい自身だな。

「そうなればいいけど」

『それでは試合開始!!』



「はっ」

綾香の鋭いパンチ。

「おっと」

何とかかわす志保。

しかしそこに中段蹴りの追撃。

「ぐは」

「どうしたの? まだ10%の力も出してないわよ」

「ケホケホッ。…ふう、やっぱり普通に戦っては勝てないわね。ならばこの技を出すしかないか」

「むっ」

「いくわよ…體透羇(たいとうき)っ!!」

シュワァァアア

「なっ!」

『おおっと、長岡選手の姿が消えました』

『こ、これはまさか!』

『し、知っているのですか姫川さん』



・體透羇(たいとうき)
大気の流れを読み、自分もそれに一体化することで姿を見えなくする技。
ある流派に伝わる技だが、その流派を極めるつわものでもそう簡単に使える技ではなく、10年に一人使えるものがでればいい方だとだと言われている。
明○書房刊『あなたがわたしにくれたもの』より



志保のやつめ侮っていたが凄い技を使えるんだな。

『戦いの中で姿を消せると言うことは圧倒的な有利を得ることができます』

『ということはこの試合わからなくなった、と』

『普通ならそうなんですが…あれでは…』

あれでは?

「ふふっ。まったくツメが甘いわね」

「(ツメが甘い? ふん、きっと強がっているのよ。姿がみえないのに以上私の有利は揺るがないわ。くらえ、志保ちゃ〜んキッ  )」

「そこね! 極意、兜指愧破っ(とうしきは)!!」

ズガッ!!

『でた! 綾香選手の兜指愧破!!』



・兜指愧破(とうしきは)
親指と人差し指と小指を突き出し相手を貫く技。
拳よりも氣が点に集中するためその貫通力は計り知れない。
明○書房刊『ピザ宅配員の憂鬱』より



「な…なんで…場所……わかった…の」

バタンッ

『それまで!! 勝者、来栖川綾香』



「姿を消しても気配を消さないと、私のように気配がわかる人には消えてないのと同じよ」

『なるほど、長岡選手は姿を消せても気配を消す方法を知らなかったということですか』

『気配を消すほうが普通は基本的な技なんですが…』

大学入試の問題が出来て算数が出来ないようなもんか。

まあそこら辺は志保っぽいといったら志保っぽいな。



「ものいい!!」

ん、なんだ?

大会委員のような人が数人でてきて勝負にものいいを付けてきた。

そんな相撲みたいな制度もあるのか。

『何なんでしょう? 今の試合は文句無しに来栖川選手の勝利だと思われるのですが…。おっと、どうやらまとまったようです』

「来栖川綾香選手は他校の生徒のためこの予選に参加する資格なし。よって失格です」

あっ、そういば!?

なんであいつここの予選に普通に参加してるんだ。

というか、なんで誰も気付かなかったも謎だ。

「あちゃ〜、バレちゃったか。残念」

「お前何しに参加したんだ? ほれタオル」

「あ、サンキュー。いや〜久々に葵と真剣に戦いたくってね。それはお預けってことか」

「綾香さんと試合できるんだったらいつでも試合受けたのに…」

「いや、こういう公式の試合の方が燃えるでしょ」

「それはそうですが…」

「そういや寺女は選ばれなかったのか?」

寺女には綾香のほかにもセリオや緒方理奈といった実力者が居たはずだが。

「そりゃあムリよ。ウチ女子高よ」

「あ、そうか」

チームは男子1人女子3人が原則だからな。

「気付いた時には一般の部も締め切られててさ。その憂さ晴らしもあって参加ってわけよ」

「なるほど」

「はい、タオルありがと。着替えてくるわ」

「おう、お疲れさん」



『先ほどの試合、本当なら長岡志保選手が勝者となるんですが長岡選手は全治2ヶ月の重体のため本戦出場は不可能。そのためこの後の3試合の勝者がそのまま本戦出場となります』

ふむ、これで一回戦の勝者4人が争う総当たり戦はなくなり、次からの試合の勝者がそのまま代表に選ばれるわけか。







『それでは第二試合、姫川琴音VS雛山理緒の好カード。選手が入場してきた模様です』

『今回解説には先ほど素晴らしい試合を見せてくれた来栖川綾香さんをお招きしております』

『どもども』

『それでは試合開始!!』



「ふふ〜、あなたの事は調べがついてるのよ」

「……」

「超能力を使え、それで相手の動きを止めたり、また相手に触れずに攻撃したりできる。動きを止めさえできれば勝負は決まったようなものだけど、力の発動までに若干時間がかかる」

「…まあ、当たりですね」

「発動のスキを与えなければ勝てる!! んなわけでこっちからいくよ〜」

理緒が先制攻撃に出る。

「くらえ、如意驍髪襲(にょいきょうはっしゅう)!!」

ヒュン、ヒュン

理緒の髪が伸びそれが琴音ちゃんを襲う。

『な、なんと雛山選手の髪が伸びました!!』

「むっ」

ササッ

『姫川選手これを寸前のところで避ける。解説の来栖川さん、今の技は?』

『あれは…』

『あれは?』

『髪の長さ変えられるし美容院行かなくていいから便利よね』

『……』

…綾香、解説になってないぞ!!

トントン

「ん? あ、先輩」

「……」

「ふがいないの妹に代わって私が説明しましょう、だって?」

「……」



・如意驍髪襲(にょいきょうはっしゅう)
インド、ラーマヨガに伝わる秘術。
髪の長さを自由に変えれるだけでなく、髪の先端を氣で刃物のように尖らせ、それで攻撃する。
明○書房刊『カレーの王女様』より



シュンシュンシュシュン

理緒の凶器のような髪の先端が絶え間なく琴音ちゃんを襲う。

サッ、サッ

それを琴音ちゃんは最小のステップでかわす。



「…ふぅ、この技をここまで見事にかわしたのはあなたが始めてよ」

「どうも」

「でも毛先にはアリクイを一秒で死に追いやる猛毒が塗ってあるわ。かすりでもしたらアウトよ」

なんでアリクイなんだ。

普通に象を何秒とかのほうがわかりやすいのでは…。

「猛毒…ですか」

毒と聞いたとき琴音ちゃんが少し笑ったように見えた。

「まだまだ行くよ〜。てや〜〜」

ヒュン

「ふふっ」

グサっ!

「なっ!?」

『な、なんと姫川選手1歩も動かずに攻撃を腕に受けてしまった〜!』

「愚かな。逃げ切れないと思って諦めたか…」 琴音ちゃん一体何を…。

「…そろそろ毒が回るわ。アウフ ヴィーダーゼーエン(さようなら)」







「…毒が効けばね」

「なに!?」

猛毒攻撃を受けたはずの琴音ちゃんはなぜか平然と立っている。

「はぁっ!!」

ヒュッ

毒を受けた方の手で手刀を繰り出し、それは理緒の頬をかする。

「な、なんで…。そ、その腕はまさか!?」

「愾慄流毒手拳(きりつりゅうどくしゅけん)。毒手に毒とは愚かなことです。

『な、なんと姫川選手が攻撃を受けた腕は毒手だった〜!!』

「…そろそろ毒が回ります。…オー ルヴォワール(さようなら)」

「そ、そんな…」

…バタン

『し、勝負あり。姫川選手の勝利です!』



毒手か〜…。

って、はっ!?

オレ事あるごとに琴音ちゃんの手であんな事やこんな事してもらってたはず…。

大丈夫かMySon!?

「普段は来栖川綾香工業開発の特殊な人工肌でコーティングしてありますから大丈夫ですよ」

いつのまにか琴音ちゃんが目の前に来ていた。

「ああ、よかった〜。ってなんで考えてる事わかるの!?」

「口に出してましたよ」

「マジですか」

Kan○nの主人公みたいな事してしまった。

「…恥ずかしいのでそういう事はあまり口に出さないほうがいいですよ」

おもいっきり周りからジト目で睨まれていた。

「以後、気をつけます」

「ふふっ。では着替えてきますね」

「オツカレー」

もうだめだ。

明日から夜道一人で歩けないよ。



「浩之ちゃ〜ん」

「ん?」

オレが落ち込んでいるところにリングのほぼ真横に設置されている放送席の方からあかりがオレを呼ぶ。

「次の試合の通訳してよ」

「通訳?」

「来栖川先輩の」

「ああ、そっか」

先輩は普通の喋る声が物凄く小さく、その微かに動く唇で言葉を判断しなければならない。

人間で彼女の言葉がわかるのはオレと綾香ぐらいなもんだ。

よって次の試合の先輩VSマルチは一般人にはマルチが一方的に喋っているようにしか見えない。

「そういや綾香は? やつなら解説もできるだろうに」

「ああ、なんか用事があるって行ってどこかに行っちゃった」

「しょうがないなぁ。そいじゃやりますか」

「ありがとう〜」







『それでは第三試合、来栖川芹香VSマルチの試合を始めたいと思います』

『今回は解説役に姫川琴音さん。来栖川芹香選手の通訳に藤田浩之さんを迎えています。お二人とも代表決定おめでとうございます』

『ありがとうございます』

『どうも』

やっぱマイクの前だと少し緊張するなぁ。

『あの大会までは負けられませんからね』

『あの大会と言うと「天」の称号を得ることのできるというアレですか』

『はい』

なんの話だかさっぱりわからん。

喊烈武道大会とは違うのだろうか。

『姫川さんはそれに一歩近づいたわけですが』

『まだまだです。日々精進あるのみですね』

『スポーツ選手の典型的な返しありがとうございました』

『おっと選手が入場してきた模様です』

「手加減はしませんよ。というか出来ませんけどね」

「……」(浩之による翻訳:手加減はいりません。思いっきりかかって来なさい)

『それでは試合開始!!』



「……」(こちらから行きますよ)

「……」(ゴミョゴミョ←呪文はさすがに訳せないです)

「……!」(いでよ、氷の精霊シヴァ!!)

ヒュ〜

その召喚獣が現れたとたん周りの気温がグっと下がった。

『琴音さんこれはいったい』

『氷の精霊シヴァ。空気中の水と冷気を操り、ダイヤモンドダストを起こす。それをくらったものは一瞬にして凍りつくという』

「……」(いけ)

ヒューー

マルチの周りに氷片が飛び交う。

キーン

『マルチ選手凍り付いてしまった。これまでか!?』

「甘いです!」

ジュワァ〜

「体温調節機能のリミットを外し、エネルギーを注ぎこめばこれぐらいの氷は溶かせます」

「……」(次、行きます)

「……!」(ブラックライトニング!)

『あれは人間界の数倍とも言われる魔界のいかずち』

「来栖川工業の科学力をなめてはいけません。過電流バリア!!」



「……!」(アシッドシャワー!)

『強酸の雨を降らせる術ですね』

「オーラパラソル!!」

これも防ぐマルチ。

来栖川工業恐るべし。

しかしマルチの機能を先輩が知らないはずは無いと思うが…。

「本番になって焦ってしまいましたね。そろそろ魔力も尽きてきたころ。次はこちらから行きますよ」

「……」(…そろそろですね)

「苦しまないよう、奥義で一気に決めます。秘拳降龍天臨霹(ひけんこうりゅうてんへきれき)!!」

『ま、まさかあの技は!?』

『し、知っているのですか姫川さん!』



・降龍天臨霹(こうりゅうてんへきれき)
中国拳法の最高峰ともいえる神拳寺に伝わる秘奥義。
棒状の物を凄まじいスピードでまわしその遠心力で飛ぶことが出来る。
上空で自由に動けるということは地上で戦うよりも遥かに有利であるのは言うまでも無い。
明○書房刊『そんなこんなで峠越え』より



マルチは杖のようなものを腕から出すと、それを凄まじい勢いで回し浮かび上がる。

「行き…ます…よ〜…って、アレ?」

3Mほど上空に上がったところで失速しそのまま落ちてきた。

「バ、バッテリーギれです〜。ソンナ…ちゃんとジュウデン…したはず…な…のに」

フシュー

「ピーピー。バッテリーヲジュウデンシテクダサイ、バッテリーヲ…(以下繰り返し)」

マルチがバッテリー切れと言うことは…。

『この勝負、来栖川芹香選手の勝利です!』



「……」(ぶい)

「…先輩何かやったな」

「……」

「マルチのバッテリーを古いのに替えといたって?」

朝言ってた準備ってそれの事だったのか…。

携帯電話やノートパソコンを使っている人ならわかると思うが、古いバッテリーは持ちが悪くなる。

最初に技を出しまくったのはマルチのバッテリーを早めに消費させるためか。

先輩見かけによらず、なかなか悪どいな…。







『第四試合、松原葵VS宮内レミィ。選手は入場してください』

いよいよラストか…。

「フフッ。狩れるネ、久々に狩れるネ」

レミィのやつもう狩猟者モードかよ。

「はっ!」

一方葵ちゃんは頬を叩いて気合を入れている。

『それでは試合開始!!』



ヒュヒュヒュ

待ちきれないとばかりに試合開始と同時にレミィの矢が放たれる。

ササッ

カツ、カツ、カツ

葵ちゃんは何なくかわし、3本の矢は後ろの壁に突き刺さる。

ヒュッ

(一本に見えて時間差で一本目の陰に2本目を放った)

パシィ!

「甘いです!」

『なんと松原選手2本の矢をキャッチしたぁ!』

ダッ

葵ちゃんはレミィに向かってダッシュをする。

とりあえず遠距離では向こうに有利だから、自分の間合いに入ろうということだろう。

「間合いには入らせないヨ」

ヒュヒュヒュヒュヒュ

幾本もの矢が上空に放たれ、レミィの前に突き刺さり壁となる。

「くっ」

一旦下がる葵ちゃん。

「コレはどうかナ」

ヒュヒュ

2本の矢が放たれる…が、1本は葵ちゃんの右にもう一本は左に…。

珍しく手元が狂ったか?

「むっ!」

シャッ

矢が当たりそうもないのにジャンプする葵ちゃん。

ザクッ!

『おおっと何故か松原選手の後ろにあった、あかりちゃんお手製浩之ちゃん人形1/1スケールの首がスッパリと切れた!!』

なぜ首が!?

っていうかそんな人形いつの間に作って、いつの間にあそこに置いといたんだ!?

「やっぱり…」

「フフッ、矢と矢の間に張った刃鋼線に気付くとは流石ネ」

「これでもう終わりですか?」

「そう粋がるなチャンプの娘よ。次で決めるネ。奥義三連旋曲貫!!」

(むっ。)

(三発同時打ちで1本は正面、2本は横から弧を描き確実に私のところに向かってきている。)

(突破口は上だ!)

ザシャ!

『葵選手ジャーンプ』

(そしてこの3発だけに見せかけジャンプしたところに上空からの一発が降り注ぐのも見切っていますよ!)

「甘い!!」

パシッ、ボキッ

『松原選手、上空からの矢をキャッチし折った!』

「甘いのはそっちネ」

「え? あっ!!」

ヒュン、グサッ!

『ああっと松原選手突然現れた後ろからの矢にやられたぁ!』

「フフフ。上空からの4本目を見破ったのは流石だが後ろから旋回させていた5本目には気付かなかったようネ」

『レミィ選手三連旋曲貫とか言っておいて実は5発も矢を放っていた!』

「とっさながら急所は外したようだが、その傷では…。私の勝ちネ!」

葵ちゃん…万事休すか…。



「ふぅ…。やっぱりこのままじゃあ無理でしたか」

「何を言っていル? ピンチで気が狂ったカ?」

スポ…スポ…

『おっと松原選手なぜかリストバンドを外し始めました。おや? 手首が光っているように見えますが…』

『あ、あれは!?』

『し、知っているのですか姫川さん!』

『あれは呪霊錠、修の行。一種のギプスみたいなものです』

ってことは今までハンデをつけて戦ってたって事か…。

「はずします、師匠……開(アンテ)!」

パン…ブオ!!

光の手錠のようなものが外れた瞬間葵ちゃんの体からオーラのようなものがあふれ出てくるのがオレの目にもわかった。

「そんなのもを付けて戦っていたとは…アタシもずいぶんなめられたもんネ!!」

構えるレミィ。

しかし…

「遅いです」

構えるより早く葵ちゃんがいつの間にか間合いに入り込んでいた。

「なっ!!」

「これで終わりです。J.S.A.P(ジャパニーズ・ソウル・アオイ・パンチ)!!」

ズッガーーーン!!

パンチを食らったレミィは物凄いスピードで吹き飛び観客席の壁にブチ当たる。

「早撃ち0.3秒のアタシが構えるスキに入りこむとは…オソロシイ…スピード…ネ」

ガクッ

『勝負あり、松原選手の勝利です』



ヮーヮー



スタジアムのSS席の一番後ろ。

「なかなか面白かったなぁ」

前髪で目が見えない男が試合の総評をする。

「あはは〜、そうですね」

なぜかマジックロッドをもったお嬢様っぽい人が賛同する。

「まあ60点って所でしょうか」

赤髪の無口そうな子が少し辛口の評価。

「20点。…まだまだね」

長いウェーブの髪の少女がケチをつける。

「相変わらず辛口ね」

「あ、綾香!?」

「お久しぶりね、香里」

「ああ、第一試合の…知り合いだったのか?」

「まあね。…それにしても私たちが来てるの良くわかったわね」

「あれだけの殺気で見られてたら流石に気付くわよ」

「……」

「それにしても四英雄が揃って何しに来たの?」

「なんだ、俺らの事知ってるのか。意外と有名人だな。…まてよ有名人ということはウッハウハ…」

「あはは〜。祐一さん、調子のってるとイタイ目に会わしますよ」

「ハイ、ゴメンナサイ。…まあ、俺達も良くわからんのだが秋子さんの命令でな。試合を見ておけ、と」

「水瀬秋子…そうか、面白くなりそうね」

「そういえば相沢さん。北川さんと美坂さんだけですか? 他の人は?」

「向こうで合流するらしい」

「なるほど、向こう全員集合ってわけですね〜」

「それじゃ、そういう事だから。またね、綾香」

「はいよ、いってらっしゃい」







「それでは4人で相談してチーム名を決めてください。それが終われば今日は解散です」

出場が決定したオレ、琴音ちゃん、先輩、葵ちゃんでチーム名を決めることとなった。

しかし、急に言われても思いつかないしなぁ。

「『関東豪学連』にしましょう!」

「『琴音のないしょ!!』の方がいいです」

意見を出したのは葵ちゃんと琴音ちゃん。

この二人は前々からチーム名を考えていたようだ。

「先輩は?」

「……」

「私は何でもいいですだって?」

ふむ。

となると『関東豪学連』『琴音のないしょ!!』のどちらかになるのだが…

なんか、どっちも嫌だ。

『関東豪学連』はなんかゴツそうだし、『琴音のないしょ!!』自己主張が強すぎる上にパクりだ。

ここはメンバーの一員としてオレも意見を言おう。

「ToHeartは東鳩と言われることも多い。それにちなんで『キャラメルコーン』ってのはどうだ?」

「ダサいです」

「センスのかけらも感じられません」

ひ、酷い。

『関東豪学連』『琴音のないしょ!!』にボロクソ言われた。

「まあいいです。ここは公平にじゃんけんで決めませんか?」

「いいですよ」

「OKだ」

「それじゃあ、最初はグーで…。いきます…最初はグー」

3人ともグーを出す。

ピキーン!

うっ、なんだ…体が動かん!

どうやら葵ちゃんも同じようだ。

まさか琴音ちゃん。

「じゃんけんポン。はいお二人がグーで私がパー。私の勝ちですね」

琴音ちゃんが超能力を発動させたため、最初はグーのグーを出した状態から体が動かなかったのだ。

「卑怯です!」

「卑怯だっ!」

「何のことでしょう? わたしにはさっぱり…」

琴音ちゃんいつからそんの性格に…。

お兄さんは悲しいぞ。

…まあ、ハメられたながらも負けたには負けたのでチーム名は『琴音のないしょ!!』に決定。

これからどうなる事やら…。







つづく





ジェミニ(以下g)「だよもんよ、私は帰ってきたぞ〜!」

あゆ「久々の後書きで何イキナリわけのわからんことを…」

g「ってなわけでDNMLでも発表した第一の凶をSS版に手直ししてお送りしました」

あゆ「今回はまた思い切って手直ししたねぇ」

g「うむ。半分新作なぐらいの勢いの手直しぶりだ」

あゆ「喊烈武道大会シリーズDNML版はこれからどうするの?」

g「とりあえずSS版を完結させてからDNML作成環境が復活したらDNMLも作りたいと思う」

あゆ「いろいろ複線は張ってあるけど全て生かせるのかねぇ。アンタの技術じゃ心配だよ」

g「だからアンタ言うな! …まあいいや。これまでと違い、次回の第二の凶からはほぼ一から作らないといけないので今まで以上に時間がかかるかもしれませんが期待せずに待っていて下さいな」

あゆ「それではみなさん」

g・あゆ「「ごきげんよう」」



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