ホームパティー
Tr.10:マールツァイト




あの激闘から一週間。

新堂美袴、笠原彌奈子争奪試合、最後は巫女先輩のシュートで決着。

10-7で家庭科部が勝利した。

よって、笠原彌奈子は家庭科部に入部してもらうという事に。

しかし、彌奈子はウチの学校で数少ない全国大会に行けそうな部活、女子バスケ部のホープである。

バスケ部顧問には泣きつかれ、教頭にはおどされ、最後には校長まで出てきてリョウに勘弁してくれと詰め寄った。

リョウもなかば強引に試合に持っていった事もあるので、ある程度譲歩する。

笠原彌奈子は家庭科部優先ながらもバスケ部との兼部という形になった。

重要な試合や、大会一週間前などにはバスケ部の方に行き、それ以外は家庭科部、というのが基本的な型らしい。



ガラガラガラ

家庭科室の扉を開くと白髪の男子が一人座っていた。

その男子は窓の方に向けていた体を、いつも変わらぬ爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。

「あ、綾音さん、こんにちは〜」

「こんにちは」

Pちゃんはあの試合で運動神経の良さを見せつけた。

後で聞いたらバスケット自体2、3回しかやったこと無かったらしい。

なのに、男子バスケ部レギュラー組と互角以上に渡り合っていた。

今更ながら、なぜ家庭科部にいるのか謎である。

「Pちゃん一人?」

「あ、いや奥に…」



ガチャ

「Pちゃんやっぱ無いわ…って、坂本先輩! こんにちはー」

「こんにちは」

奥の準備室から出てきたのは、あの試合の主役だった笠原彌奈子。

ウチに入るとき渋るかと思ったが、意外とあっさり家庭科部に入ってくれた。

それは兼部という形でバスケが続けられる事、後なんといっても巫女先輩と間近でお喋りができるという事があったからだろう。

「何が無いの?」

「味噌です」

「ああ、それなら切れたから昨日リョウに買って来ておくように言っといたわ。アイツの家、帰る途中にスーパーあるし」

「そうだったんですか」

「ええ。言っておいてなくてごめんね」

「いえいえ、来るんだったらいいですよ。えーっと、もうご飯はスイッチ入れてありますから料理作ってる間に炊けると思います。あとはメインの肉じゃがとお味噌汁をつくるだけですかね」

素晴らしい。

今日は週に一度の料理会の日。

その時の行事によって多少は変わるが、基本的には金曜の放課後に行う。

今回は彌奈子さんが初めて参加する。

今日は巫女先輩が遅れるという事なので彌奈子さんが料理長となる。

今回の献立はご飯とお味噌汁、おかずは肉じゃがである。

去年にもやった内容だが笠原さん流の肉じゃがも食べてみたいということで肉じゃがに決定した。



ガラガラ

「おーっす」

「こんにちはー」

「こんにちは…」

「おや、彌奈子くん挨拶の声が小さいぞー」

「うるさいわね! 挨拶してあげただけでも感謝しなさい!!」

リョウと彌奈子さんは何かあるたびにいがみ合っている。

リョウが彌奈子さんの反応が面白くてなにかとイジるのに原因があるのだが。



「おそいわよ、リョウ」

「ああ、悪い。友達が面白い実験をしようとしてるところに出くわしてな。それに少し参加してたんだ」

「へぇ〜、どんな?」

Pちゃんが目を輝かせている。

面白いこととか聞くとこうなるようだ。

そんなところは海藤先輩に似ている気がする。

「体育の逆木って知ってるか?」

「頭ツンツンの人でしょ。ウチらの今の体育の先生ですよ」

「そういや一年担当か。でな、オレの友達が逆木の頭がどれだけツンツンかを調べようって事で、試しにリンゴをあいつの頭にめがけて放ってみたんだよ」

「ふむふむ」

「そしたら、見事にブスリ。リンゴが刺さったんだよ」

「マジっすか!」

「マジマジ。絶対あれ、ジェルじゃないって。セメンダインか何かで固めてるぜ」

「ははは」

「ワハハハハ」

確かにその話は面白いのだが、一つ気になるのはリョウが鷹ノ峰指定のカバンしか持っていないという事だ。



「リョウ…」

「ハハ…ん?」

「お味噌は?」

「味噌?」

「そう、味噌」

「……」

「……」

「……あ!?」

「まさか…」

「忘れた…」

「買ってないの?」

「買ってない…」

「あんたねぇ…」

「いや、違うんだ」

「何が?」

「スーパー行く前に隣の古本屋に寄ったのだが、そこでちょっとレアな本を見つけてだな」

「で?」

「あーいや、だから見つけてー…興奮してー…買い物の事忘れてた」

「へぇ…」

「綾音さん…怒ってます? 怒ってますよねぇ…」

「当たり前でしょう! 今からダッシュで買ってきなさい!!」

「ほーい」



ダダダダダ

「まったく…」

「坂本先輩も大変ですねぇ。…あ、そういえば」

「なに?」

「なんでアイツが部長なんです? 坂本先輩の方が適切かと思われるんですが」

「あ〜、なぜだかリョウが自分から部長やりたいって言い出したのよ」

「なんでまた?」

「さあ、それが私にも良くわからないんだけどね」

「はぁ…謎ですねぇ」



あの試合、リョウは一秒以内の先のことが見えるという特殊能力、ブラッディアイズを使った。

しかし、あっさりとその欠点は見抜かれ、最後は海藤先輩に助けてもらった感じである。

切り札出してそれで勝負を決められないところが果てしなく情けない。

でも、伊上涼という人物は昔から結構そんなところがあったりしたので、私からすればリョウらしいなぁと思うところだった。

しかしまあ、リョウが最初の交渉の時、相手を挑発してハンディを7点に仕立て上げたのは大正解だった。

ハンディが5点だったならば、3点とるのもやっとだったウチは負けていただろう。



「じゃあ、料理始めちゃいますか。リョウもそのうち帰ってくるでしょ」

「ですね」

「は〜い」

「それでは彌奈子さん。ご指導のほどよろしくお願いします」

「あはは。それじゃあ先輩はじゃがいもむいて下さい。Pちゃんはニンジンね」



野菜の皮をむき、彌奈子さんに言われた通りに切る。

肉じゃがを煮始めると、その匂いにつられたように海藤先輩がやってきた。

そのすぐ後には忙しい間をぬってきた巫女先輩も登場。

それから通常30分かかるところを25分という中途半端な飛ばしぶりで帰ってきたリョウは買い物を忘れていたことを彌奈子さんに告げ口され、巫女先輩におしかりの言葉をうけていた。



「リョウさん。忘れ物しちゃ、めーっ、ですよ〜」



…あれは反則だと思う。

リョウは反省するどころか癒されていた。



「それじゃあ食べますか」

一つのテーブルを6人で囲む。

「いただきます」

『いただきまーす』

パク

『……』

「…あの〜、どうですか?」

「おいしい…」

「うむ、激ウマだ」

ガツガツと海藤先輩マジ食いモード。

「合格!」

「ほんとおいしいですねぇ」

リョウとPちゃんも負けじとがっつき始める。

料理は本当においしかった。

巫女先輩の料理がお店の味なら彌奈子さんのは家庭の味ってところだろうか。

「この大きめの具がいいですねぇ〜」

「ほんとうですか!? 巫女先輩に誉められるなんて夢のようです!」



今考えると、リョウは料理が上手い人の中で一番入部させるのが困難な人を選んだのかもしれない。

リョウは昔からそういう無駄な事をするのが好きだったからだ。

でも、その無駄な事も今は無駄ではなかったと思う。



それは彼女が今、本当に楽しそうにしているから。





[後書き]

どうも、ジェミニです〜。

はい、というわけでホームパーティー第一部『部員争奪バスケ編』はこれで完結です。

なんとか年内に発表できて良かった〜。

一応、頭の中には第三部までの構想は一応出来てるんですがねぇ。

それぞれのキャラの私的思い入れとかをここで。



伊上涼は特殊能力者という事が第一部では判明。

でも、結果的にはあっさりと破られる。

なんでも出来そうだが、意外と出来ない。

でも、結果的にはリョウの思い描いた通りになる。

そんなキャラでリョウを作りました。



坂本綾音は第一部では地味でしたね。

基本は礼儀正しいキャラがなんですが、リョウに対しては手の早い幼馴染になってしまう。

そんな感じを目指してみました。

綾音がメインの章も作る予定。



新堂美袴は「ちっちゃい」「先輩」「巫女」という最強属性。

みんなから可愛がられるようなキャラが欲しかったのでやっちゃいました。



海藤進は無敵の先輩っていう感じですね。

第一部だけでもその片鱗は見せれたとは思います。



Pちゃんはまだ謎を残した感じにしてます。

今のところオールラウンダーみたいな感じになってますね。

まあ今後の話でいろいろ出して行くつもりです。



笠原彌奈子はなんといってもツインテール!!

スポーツ少女はツインテールに限りますねぇ。

思いっきりわたしの偏見ですが…。



まあ、そんな感じです。

第二部開始がいつになるかわかりませんが、これからもホームパーティーをよろしく。





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