笠原彌奈子はボールを貰うとマークの美袴をスピードで一気に置き去りにし、その後フォローに入っていた綾音をワンフェイントで抜き去った。
『速い速いーー!! その速さはまさに疾風!』
「Pちゃん!」
「はい!」
『家庭科部、伊上選手とPちゃんの二人で行く手を遮った!』
ダムダム、ダッ、キュ
「むっ!」
『Pちゃんサイドを攻める!』
クルッ
「なっ」
ダダッ
『っとそれはフェイントで、それによって開いた二人の隙間を抜いた!』
「しまった!」
『これで家庭科部はゴール下の海藤選手を残すのみ』
「ふっ、打たせんぞ」
『笠原選手強引に切れ込みジャンプシュート! しかし海藤選手もブロックに行く!』
「強引過ぎだ。かわしきれていないよ彌奈子君」
「今から抜くのよ!」
ヒュィ
「なっ」
シュッ…パサ
『入ったー!! なんと空中で体制を変え、海藤選手のブロックをかいくぐっってのシュート!!』
「マジかよ…」
敵対するエースの強さに愕然とすると同時に、はやり自分の目は間違っていなかった、あれはウチに必要な人材だ、と再確認するリョウだった。
ホームパーティー
Tr.06:あびりてぃ
『またも速攻。笠原選手決めたーーー!! これでスコアは8-3になりました』
「くっ」
バスケットの素人と経験者の一番の大きな違いはシュート決定率だ。
こっちはシュートを2度はずし。
それを拾った向こうは2本確実に決めている。
得点を決めたのはいずれも笠原彌奈子。
そのスピードはおそらくウチの学校の女子の誰よりも速いだろう。
それに加え一点目を決めた時にみせた恐るべき身体能力。
空中で体制を変えシュートなんか常人では不可能である。
「リョウ、あれは止められないわよ」
「だなぁ。しかし止めなければいかんのだ。うーむ…。あ、そうだ」
「なにかいい案でも?」
「向こうが後7点決める前に2点決めればいいんだよ」
ポカッ
「あいて」
「んな当たり前の事は聞いてないわよ」
「でもまあ、単純にまだこっちの方が有利だ。数打ちゃ当たる作戦で行こう」
「はぁ…大丈夫かなぁ」
「大丈夫、シュートを打ってればいつかは入るさ」
バシッ
『おおっと。Pちゃんから海藤選手へのパスを高木選手がカット』
「げっ!!」
「打ててもいないじゃない!」
「そんな事いってる場合か、戻るぞ!」
『ボールは高木選手から、センターサークル付近の坂田選手へそして逆サイドの利根選手へ。男子勢の動きも良くなってきています。そしてボールは絶好調の笠原選手へ!』
「行かせるか!」
『家庭科部。2人でだめならと今度は男3人で前を塞いできた』
「はっ」
『しかし構わずに笠原選手シュートに行く。流石にそれはムチャでは!?』
「なめるな!」
『男3人がかりのブロック。小柄な笠原選手には大きな壁だ!』
ダッ
「なに!? 後ろに!」
シュッ…スパ
『決まった決まったーー!! 笠原選手後ろにジャンプしてコースを作ってシュートを放ち決めたーー!! もう、あんた凄すぎ』
「くっそー。フェイダウェイか…やってくれる」
「ふっふー。もう少し骨がある人達かと思ったけど所詮はこの程度か」
「言うじゃないか」
「この程度で私を取ろうなんて考えが甘いわね」
「それはどうかな。オレはまだ実力の半分も出しちゃいないぜ」
「じゃあその残りの実力も出さないと勝てないわよ。…出せたらね」
「ふっ、言ってろ」
『これでスコアは8-4このままバスケ部が逆転してしまうのかー!!』
「部長、まだ本気じゃなかったんですね」
「え? あ、あぁ…任せろ」
人は時と場合によりハッタリを必要とする生き物である。by伊上 涼
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