「やば、始まりそう!」

体育館に急いで駆け込む女子一人。



「お、ヨッシーだ」

「遅いぞヨッシー!」

「どうした寝坊か〜?」

「うるさいわねぇ。途中で自転車のチェーンぶった切れたのよ!」

「今日も面白い実況頼むよ〜」

「はいよ〜、任せといて!」

会う人、会う人から声をかけられる。

それもそのはず、この女子、学校でもかなりの有名人。

その名は放送部の園田芳美。

通称ヨッシー。

ありとあらゆる部活の試合で実況を務め会場を沸かせている人物である。



ホームパーティー
Tr.05:紀州といえば炭




ピピーー!!

「選手の人は集合して下さい!」



「ふぅ。なんとか間に合ったか…」

『あ〜あ〜テステス…。OKだね。さて…』

大きく息を吸い込んで、気合を入れ直す。

『みなさんいかがお過ごしでしょうか。爽やかな春の昼下がり。バスケ部VS家庭科部の部員争奪ゲームが行われます!』

「いいぞ、ヨッシー」

『久々に面白い試合に立ち会うことになりそうです。バスケ部はガチガチレギュラーの5人。果たして伊上涼率いる家庭科部に勝機はあるのか!?』



「それでは試合開始!!」

ピー!!

『さて、今日の審判である佐井さんが放ったボールをジャンプで取り合う所から試合は始まります。しかし佐井さんってあまり目立たないけど、結構顔立ちは可愛いよねぇ。今度、昼の放送の「今日のアイドル」ってコーナーに出てみない?…っと、おおっ!』

「な!?」

皆驚いたのだが、一番驚いたのはバスケ部でも一番の長身の坂田だった。



『ジャンプボールの競り合い、なんと互角です!』

Pちゃんがが7cmの身長差を埋めるほどのジャンプを見せたのだ。



「はっ」

『しかし、こぼれた弾はバスケ部の城嶋選手の手に渡りました』

「ナイス、城嶋君。一旦こっちに」

「お、おう」

『ボールは一旦、高木選手に戻されます。そこに着くのは坂本選手』

「やっぱ私には綾音か。…一人で止められるのかしら?」

「やって見ないとわからないでしょう」

「そう」

ダムダムダムダム…ダッ

『高木選手ゆっくりとしたテンポから一気にスピードアップして抜きにかかる。しかし坂本選手もピッタリ付いていく』

キュッ

「利根君!」

シュッ、パシ

『一旦止まり、横に走りこんでいた利根選手にパス! 利根選手そのままゴール下に切り込む』

「よし、もらっ――」

「ドリブルが少しギコチないよ。利根君」

「なっ!!」

バシッ

『おおっと、海藤選手がドリブルをカット!!』

「みんな、戻って!!」

「おう…わっとっと」

ドテンッ

『戻ろうとした城嶋選手と利根選手がぶつかって両者倒れた!』

「ああ、もう何やってんの!」

「リョウ!」

シュルルルッ、パス

「ほいほい」

『海藤選手から前に張っていた伊上選手に渡る! だがそこに笠原選手が付く』

「抜かせないわよ!」

「ミナか…マトモに勝負しても抜くのは難しいだろう。でも、上はどうかな」

シュッ

「な!」

『伊上選手、身長差を利用してゴール下にパスをだす。そしてそのボールはゴール下のPちゃんに!』

「坂田君止めて!」

「おう!」

「ほっ」

クイ、サッ

「しまった!」

『おっと、Pちゃんシュートフェイント。坂田選手、振られた!』

「もーらい!」

ヒュッ…パサ

『入ったーっ!! なんと先制は家庭科部。海藤選手のカットからの速攻でした〜。ハンデが7点あるのでスコアは8-0で家庭科部のリードとなりました』



「城嶋君、坂田君、利根君どうしたの!? 動きがカタイわよ」

「あ、いや〜スマン。こんな大勢人がいるなかで試合するの初めてで…」

「はぁ…そういやそういか。計られた…やるわねぇ家庭科部」



海藤進の考えた作戦は単純なものだった。

事前の宣伝活動でたくさんの人を集めれば大勢の前で試合したことのない男子勢は多少なりともカタくなる。

そこを突けというだけのものだが見事に成功。



この作戦成功によりPちゃんの海藤に対する認識が変なOBから少し凄いOBに変わっていた。

だがそんな事よりも、実況の人に皆『〜選手』で呼ばれているのに、なぜ自分だけあだ名で呼ばれているという事のほうが気になるPちゃんであった。



『さすがは家庭科部、伝説のOB海藤進。昔、部活という部活が欲しがった人材だったというのは真実だったようです!』

「補足するなら他の学校からも誘いがあったぞ。まあ自慢だがなハッハッハ〜」



「城嶋君、坂田君、利根君!」

ビクッっとおびえるように背筋を伸ばす城嶋達。

「これに勝たないと笠原さん取られちゃうのよ。わかってるの? もっと気合いれて!」

「お、おう。もう観客の目なんか気にしない。笠原さんは渡さない!」

「そうそう、その意気よ! 城嶋君は全体のコントロール。利根君はドリブルで切り崩して。坂田君はリバウンドしっかりね!」

「おう!!」



「ふむ、さすがは高木。城嶋達のカタさが取れたな」

「ってことはこっからは気合ですね」

「そういうことだ」



『さて得点は8-0で家庭科部のリード。はてさてどうなることやら。次回「紀州といえば炭」こうご期待ですよ〜!』

「ヨッシー。それ今回のタイトルだぞ」

『試合中なのにツッコミサンクス、リョウちゃん。それでは試合は続きます〜』



結局、次回タイトル発表無しかい。

と、軽くツッコミたかったが試合に集中し直す伊上涼であった。





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