「オレを呼ぶ声が聞こえたってか」
「進ちゃん!」
「久しぶりだな巫女っち」
ホームパーティー
Tr.03:タイフーンを呼ぶ男
「なぜに窓から…」
「いやぁビックリさせようと思ってね。お、キミがポール君かね」
「そうですけど。…彼方は?」
「私か、わたしは海藤進。家庭科部OBだ」
「OBさんでしたか」
「キミには期待しているよ、はっはっはー」
「はぁ、どうも」
この窓から入ってきた男の名は海藤進。
家庭科部のOBで前部長だった人だ。
「話は聞かせてもらった。人材を争ってバスケ部と試合するそうだな」
「はぁ、まあ」
この人は数分前に決まった事をどこから聞いてくるのだろう。
「リョウお前、オレを勝手に人数に入れただろう」
「まあ、バスケは普通5人ですし、海藤さんなら来るかなぁと思って勝手に」
「それはナイスだ。こういう事に関わるのは大好きだからな」
祭りやイベントが大好きな人って必ず知り合いに一人はいるもの。
この人は中でも飛びぬけた感じだ。
「そんなわけだから早速『進ちゃんの必勝マニュアル』を作ってきた。皆、明日までに読んでくるように」
「いつ作ったんですか、それ」
「ははは。気にするな、リョウ」
はぁ…まあいいや。
深く考えてると、この人とは付き合えん。
「あとこのチラシ。明日にでもいろいろな所に張りまくっておくんだ」
そう言って渡される数十枚のポスターらしき紙には『家庭科部VSバスケ部、部員争奪バスケットボール対決』の見出しがあった。
だからいつの間に……ん、ちょっ〜と待てよ。
あ〜…思い出した。
そういえば笠原彌奈子の情報を貰った写真部部長の田畑先輩と海藤先輩は『ツー』といえば『かぁーっ、お前ってヤツは発音悪いな。Dの事デーって読むだろ』と言う位の受け答えが出来るぐらいの仲だったのを忘れていた。
たぶん、そこからオレが笠原彌奈子を狙っているという情報が漏れたんだろう。
でも、その情報が入ったからってオレがバスケ部に喧嘩を売って勝負に持ち込む事を読んでたって事だよな…。
恐ろしい人だ。
「それじゃあオレは少し職員室に顔出してくるから」
「はい」
「進ちゃんまたね〜」
海藤先輩は去っていった。
『進ちゃんの必勝マニュアル』とやらにはバスケットの簡単なルールから始まり、ウチのバスケ部の各選手の癖まで載っていた。
城嶋司:主にセンターを務める。男子バスケの中でズバ抜けて上手いが、プレーが素直すぎるのが玉に傷。
高木真帆:県内でも屈指のポイントガード。まさにゲームをコントロールする司令塔。
笠原彌奈子:主にフォワード。エースという言葉は彼女のためにあるようなもの。中学では得点王、県内MVPを獲得。全国でも名が知れているほどの選手である。
「などなど。どっから調べて来るんだか…」
「予想される布陣は男子が城嶋、坂田、利根、女子が高木と笠原か…。上背のある坂田にはPちゃんをぶつけよう」
「は〜い」
「城嶋は海藤先輩に任せよう。問題は高木と彌奈子だが…」
「じゃあ私、高木さんをメインで着くわ」
「それじゃあ巫女先輩は、彌奈子か」
「ぁゎゎ…。あたしじゃ全く勝負にならないような気がしますけど…」
「大丈夫、みんなでフォローするさ」
「ぁゎー。すいません」
「誤ることじゃないって。どうせみんな1VS1じゃ抑えきれないんだから」
「男子バスケ部のメンツでさえ万年一回戦負けとはいっても、素人のボク達よりかは遥かに上手いハズですからねぇ」
「まあ臨機応変にやっていこう」
「はい」
「了解」
「はい〜」
その後軽い打ち合わせをして、帰宅の路につく。
いつも、というわけではないが、たいがいは綾音と一緒に帰っている。
家が近いというのもあるが、こう見えても坂本グループのお嬢さんだ。
何時さらわれてもおかしくない。
小学校の頃は車で送り迎えされていた。
いつからか一緒に帰るようになったんだが…。
「…なに? さっきから人の顔をジロジロと」
「ああ、いつから一緒に帰るようになったんだかなぁとか思ってたら」
「中学2年のときよ。坂本流の剣術をマスターしたからもう送り迎えはいらないって、私が親に言ったのよ」
「そういやそうだったなぁ。でも叔父さんがダメだって聞かなくって」
「アンタと一緒ならOKって事になった」
「う〜ん、それがいまだに解らないんだけどな。オレ、お前より弱いぞ」
「バカね。男が一人いるといないでは違うものよ」
「そんなもんかねぇ」
「部長、綾音さん。また明日〜」
「お、Pちゃんか」
校門を少し出たあたりでPちゃんがマウンテンバイクでオレ達を抜いていった。
「さようなら」
「気をつけてな〜」
「は〜い」
Pちゃんは少し遠いので自転車通学だ。
「あのマウンテンバイク高そうだよなぁ」
「オーダーメイドって言ってたわよ」
「マジか〜」
ちなみに巫女先輩の神社は裏門を出て少し上ってきた所にあるので、表門から帰るオレ達とは会わない。
「しかし、バスケットねぇ。ホント、リョウと居ると退屈しないわ」
「誉めてくれるとは珍しい」
「皮肉で言ってるのよ、まったく…」
頭の痛い綾音であった
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